Published: February 8, 2025
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東京大学において、サム・アルトマンとケビン・ワイル(CPO)を招いた質疑応答セッションが開催され、非常に多くの有益な情報が共有されました。以下まとめます。 --- Q1. この先10年、30年、100年後の生成系AIを導入した社会がどうなるか、特に教育分野がどう変わるか? 教育は私たちが最も注目している分野の一つです。すでに起こっていることを見るとわかるように、これは本当にすごいことだと思います。世界中のすべての学生、さらに言えばすべての人が、現在存在している最高水準の教育よりも、はるかに優れた教育体験を得られるようになるでしょう。すでに私たちの技術の上に構築されたパーソナライズドチュータリングの企業が始まっていて、人それぞれの学習スタイルや弱点に合わせて、人生を通して学びをサポートする。そんな時代が来ると思います。 日本ではまだそれほど事例が多くないかもしれませんが、皆さんにはぜひそういったサービスを作ってみてほしいですね。とても素晴らしいものが期待できると思います。100年先のことはもう想像すら難しいです。AIの能力がどうなっているか、まったく思い描けないですね。でも10年先なら、それでも大きく世界が変わっているでしょう。科学的な進歩や発見のスピードが今の10倍、あるいは100倍になるかもしれません。そして、経済が持続的に発展していく上で、科学的な進歩が最も重要だと私自身は信じているので、その進歩のスピードが10倍や100倍に加速するとなると、もう想像を絶するような世界になると思います。ものすごいスピードで世界が動くようになるでしょうし、人々の生活の質も大きく向上するでしょう。 100年先はまるで考えられませんが、一方で、人々がふだんの生活を営み、友達と過ごし、家族を作り、趣味を楽しむといった“人間らしさ”は変わらないとも思います。宇宙探査機が地球を飛び立って、すごいことがいろいろと実現しているかもしれません。AIなら想像できるあらゆるものを生み出せるでしょう。けれど同時に、人間という存在の意味合いはそれほど変わらないのではないでしょうか。仕事そのものの景色は変わっても、それに伴って新たな仕事が生まれますし、僕らはまだまだやることが尽きるとは思いません。 --- Q2. 世界中でこうしたAIツールに平等にアクセスできるようになるにはどうしたらいいかですか? 私たちが社内でよく言うのは「メーターで測らなくていいほど安い知能を」ということです。つまり、知能のコストを限りなくゼロに近づけて、世界中の誰もがこうしたシステムにアクセスできるようにしたい。誰もが等しく利用できることが大切だと思っています。 (ケビン)実際に、それを本気でやろうとしている証拠として、GPT3を最初にリリースした2年前と比べてみてください。今のモデルの方がはるかに高性能で、しかもGPT3当初の1%の価格で使えるようになっています。コストは大幅に下がっていて、今後もそれを継続していきたいと考えています。 --- Q3. AIの時代においてより評価される人材やスキルはどのようなものだと思いますか? 「AIよりも数学がうまい」とか「AIよりもプログラミングがうまい」とか「AIよりも物理学がうまい」といったことは、もう望めないと思います。そういう領域では人間はAIに勝てなくなるでしょう。でも逆に言えば、人間はAIを使うことで、AIなしでは不可能だったことができるようになります。たとえば電卓が出てきたときに、「どんなに電卓が優れても、自分は計算能力で電卓を上回り続ける」という人がいましたが、今となっては誰も電卓に計算速度で勝とうなんて思わないですよね。けれど電卓を使うことで、より複雑な数学を行うようになったわけです。これと同じように、どんな分野でもAIの生の計算力に勝つことはできなくなる。そこは認めなくてはなりません。 ですが、AIを使うことで新たなことができるようになります。まるで世界で最高に有能な企業を自分一人が操っているようなものです。思いついたアイデアをスタッフにやらせて形にしていくように、AIを使って進められる。そうやって素晴らしいものがどんどん生まれていくでしょう。そこで必要なスキルは、人々が本当に欲しいものを見抜く力や創造的なビジョン、状況の変化への柔軟な適応力、そしてこうしたAIツールを使いこなす力です。「AIの計算力を超えよう」という発想はもう古いんです。 (ケビン)要するに今できることは、こうしたツールを使い始めて、自分の仕事や勉強に取り入れることです。新しいことをやるときに「これをAIに任せられないか? あるいはAIが手伝ってくれないか?」と自問して、効率化していく。そうすると新しいテクニックを身につけられ、AIが進化するとともに自分もそれに追いついていけるようになります。そうやってAI時代に最適化された働き方ができるようになるんです。 --- Q4. AIと人間が共進化していくという状況でしょうか? 社会とテクノロジーが共進化していくという枠組みが正しいと思います。「AIが突然やってきて、何もかも人間を凌駕してしまう」という話ではなく、一歩ずつ一緒に進化していく。そうやって私たちができることは飛躍的に増え、AIなしでは想像もつかないほどの領域に到達すると思います。100年前や1000年前と比べて、私たちがどれだけのことを成し遂げられるかを考えてみればいい。ツールが進化すれば、同時に期待値も高まりますが、上限もぐっと上がるはずです (ケビン)ちなみに、ウォートンのイーサン・モリックという教授が書いた『Co-Intelligence』という本があります。100ページほどの短い本ですが、AIをどう授業に取り入れているか、学生がどうAIと向き合えばいいかなど、非常に示唆に富んだ内容です。読んでみると面白いと思います。 --- Q5. チャットGPTに100倍の計算資源を与えたら、どんな新たな創発的能力が出てくると思いますか? 少しずつ賢くなるというより、質的に新しいものが出るとしたら何でしょう? まさにそれを確かめるために、私たちは「スターゲート」というプロジェクトを始めています。現在のコンピュータリソースの100倍ほどを備えていて、その疑問に答えようとしているんです。以前はプリトレーニングだけやっていて、GPT1、2、3、4は順に約100倍スケールアップさせる形でした。そのたびに大きな創発が見られました。内部的にはGPT4.5くらいまで行っていますが、5.5くらいに行くにはその100倍が必要になるかもしれません。 ただ、ここ1年で私たちに起きた最大の変化は、「推論ができる新しいモデル」を作れたことです。これは計算効率を大幅に高めていて、以前ならGPT6が必要だと思われていたレベルの性能を、より小さいモデルで実現できます。ただし、全ての分野で一律に性能が上がるわけではなくて、強化学習で特定の次元を伸ばすという形になります。 それでも、大きなモデルをプリトレーニングして、同じような新しい技法を使えば、どこまで行けるかはある程度見通せます。私たちが見ているところでは、あと2桁(100倍)ほどスケールアップしたら、まさに「新しい科学知識」を本当に生み出し始めるような兆しが見えるのではないかと思っています。今のGPT4なら、既存の知識やアルゴリズムを組み合わせたりプログラムしたりできますが、まったく新しい物理法則や生物学の発見をゼロからするという段階にはまだ至っていません。でもあと2桁スケールすると、そういうことが可能になり始めるんじゃないかと。 ここ最近の進化は本当に驚くべきものです。最初の推論モデルは世界でトップ100万番目くらいのプログラマーの実力でしたが、それでも結構すごいと言われました。それが次にはトップ1万番くらいに上がり、昨年12月に話したo3というモデルでは世界175位になって、今は内部ベンチマークで50位くらいまで来ています。今年中には世界一になるかもしれない。ものすごいスケールの進化ですし、まだ止まる気配はありません。 --- Q6. 今後の研究計画や、これから実現できそうなこと、逆に特に困難だと思われることなどを教えていただけますか? 金曜日にリリースした「o3 mini」をご覧いただければ、これから6〜12か月の研究の方向性が分かると思います。小型でありながら非常に高い推論能力を持つモデルをとことん追求する。そして、今は主にSTEM領域が得意ですが、それ以外の領域にも広げていきます。さらにマルチモーダル化を進めていきたい。つまり一つのモデルで、音声ストリームを扱いつつ、コードを書いてコンパイルし、それをキャンバス上で視覚化して、インターネットも見に行く、といったことをすべてこなせるようにしたいんです。 この先は、モデルの大規模化も続けます。GPT5やGPT6、またはそれ以降も視野に入れています。実は今日の30分前に、「Deep Research」という新しいものをリリースしました。これは私たちが出した2つめのエージェント型プロダクトです。 こうしたエージェントをもっと作っていきたいですね。いつかは「コーディングエージェント」を実現したい。そこに至るまではまだ研究の余地がたくさんありますが、大きなマイルストーンになると思います。最終的には、今年中に、Proプランをお持ちの方であればコンピュータリソースをフルに使って、本当に難しい課題—全く新しい科学の発見が必要なものでなければ—ほとんどのことを自動的にこなせるようなモデルを提供したい。数時間かけて考えたり、いくつものツールを使ったりするかもしれませんが、最終的にはしっかり結果を出してくれる、そんなモデルです。そこに至るまでにはスケールアップやアルゴリズム面でまだやることは多いですが、十分実現可能だと思います。 --- Q7. OpenAIの技術が今パレスチナ人を殺傷するために使われているわけですが、これについて、今後何か対策を取ったり、この問題に取り組んだりする予定はありますか? (ケビン)その実際の使用例について、私は詳しい情報を持っていません。一般的に言えば、私たちのポリシーでは、AIを攻撃的な方法で使うことを禁止していますし、そういった軍事利用などでは人間が関与する(human in the loop)ことを義務づけています。私たちはAIをそういった用途に使ってほしいとは思っていませんし、まだそのレベルで使うには準備ができていないものだとも考えています。個人的にも、そうした直接的な攻撃行為に用いられているとは考えづらいです。 --- Q8. OpenAIがオープンソースから離れている方針が正しいのかという声も出てきています。これについて再考する予定はありますか? ええ、それについてはやります。具体的にいつ何をオープンソースにするかはまだ分かりませんが、モデルをよりオープンにしていく方向へ進むのが自然だと思っています。社会も、少なくとも今のところは、それに伴ういろいろなトレードオフを受け入れているように見えますし。私たちは安全性と堅牢性を保ちつつオープンソースでも使いやすいモデルを作るために、かなり進歩してきました。もちろん、すべてのユーザーがそう使うわけではありませんが、多くの場合は安全に使うでしょう。だから、私たちもその方向へ進むだろうと思います。 --- Q9. 脳とコンピュータのインターフェース(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)が今後発展していく中で、それが人々の意識のあり方、未来の存在の仕方にどう影響すると考えますか? (ケビン)ブレイン・マシン・インターフェースについてですが、今は取り組むには本当に面白い時期だと思います。明らかに、何らかの形で解決策が出てくると思うし、脳と直接つながったAIを使えるようになるというのは、いずれ素晴らしいことになるでしょう。過激な手法には私は懐疑的ですが、もっと軽量なやり方もあるはずです。ユーザーがインターフェースの扱い方を学んだり、低ビットレートでも脳に大量の情報を入れていける手段を工夫したり……。この6か月間で見た新しいスタートアップの中で、一番面白いのはこの分野にいる企業です。 --- Q10. AIと宇宙工学の協調や将来像について、どうお考えでしょうか? (ケビン)最近打ち上げた衛星にはGPUを搭載していて、AIモデルを宇宙上で走らせて、結果を素早く地上に送れるようにしているんです。おっしゃるように、宇宙だと開発サイクルが長くて、こちらは3か月おきに新しいモデルを出しているので同期が難しいところはあります。でも、ロケットが大型化して衛星も大きくできるようになり、太陽光パネルの性能も上がって電力を確保できるようになる一方で、モデル自体は小型化されて省電力で動くようにもなってきている。つまり、いずれは宇宙でAIが当たり前に使われる未来に収束していくんじゃないかと思うんです。それはとても面白いことですよね。 --- Q11. 10年後のAIはどうなっていると思いますか? 10年後のAIに関する展望という点で、私が具体的な予測を一つしましょう。2025年時点での地球上にある合計知能、つまり人間すべてと、その協調、そしてすべてのAIを合わせた「地球上の総知的キャパシティ」とでも呼ぶべきものがあるとして、そこからさらに2035年に至るまで進歩が続いたときに、2035年の大規模データセンター一つ分の知能だけで、2025年時点の地球全体の知能を上回る可能性がある、と私は思うんです。実際のところは、学習が進んでいく過程で人間も企業もどんどんアップグレードしていくので、2035年になった頃にはそれほど衝撃的に思えないかもしれませんが、もし2025年の世界と2035年のデータセンターを直接比べられたら、ものすごい差になっているでしょうね。 --- Q12. その「知能」の中には、物理世界の理解とかも全部含まれるんですか? 2035年にはそこまで行き着くと思います。10年後には。大学での教育も根本的に変わるでしょうね。 --- Q13. 非常に希少なデータしかない場合、OpenAIとしてはどういった戦略を推奨しますか? 面白いのは、モデルが高性能になるほど、ファインチューニングに必要なサンプル数が少なくて済むようになっていることです。これは理にかなっていますよね。知能が高いモデルほど、新しい分野を学ぶのにたくさんの例を必要としないはずです。だから、建設管理のような特定分野であっても、少量のデータで十分に学習できる方向に進んでいると思います。 --- Q14. 良いチームを作るために最も大切なことは何でしょうか? 素晴らしいですね。OpenAI以前、私はYコンビネーターを運営していて、多くのスタートアップを支援していましたし、日本の企業も何社か支援しました。創業期のチームで一番重要なのは、エネルギーがあって粘り強い人たちを集めることです。ポール・グレアムがよく言う「容赦なくリソースを活用する(relentlessly resourceful)」というフレーズがありますが、それが初期メンバーに求められる資質です。創業初期は何もかもが本当に大変なので、そこを乗り越えるだけのエネルギーを持った人を選ぶことが大切です。 --- Q15. AIを搭載した複数のロボットが、自分たちで新しい言語を発達させ、お互いにコミュニケーションし合い、独自の文化を育むようなシステムを作るにはどうしたらいいのでしょう? 最初のエージェントたちがオンライン化してきた今、いわゆる「スウォーム(群れ)」と呼ばれたり、チームや文明と呼ばれたり、そういった複数エージェントを組み合わせる仕組みを作っている人たちが出てきています。彼らは新しい方法で情報を共有・伝達し始めるだろうと思います。映画的なSFにあるような劇的なことになるかは分かりませんが、独自のやりとりや言語が生まれるのは確かでしょう。物理的な目や耳が必要というわけではなくて、良好な入出力系さえあれば可能だと思いますね。そういうマルチエージェントの取り組みは非常にエキサイティングです。 --- Q16. AIやLLMの分野は目まぐるしく進歩しますが、スタートアップが競争力を維持するにはどうすればいいと思われますか? 普通のビジネスの原則がそのまま当てはまります。AIを使っているからといって特別扱いにはならない。永続的な価値やユーザーを引き留める魅力、差別化できる何かを作らなければいけません。なかには「AI使ってるから大丈夫」と思う人もいますが、結局のところ差別化につながるものを築けないと長続きしないんですね。スタートアップに関する本で最も優れていると思うのは、ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン』です。もう10年くらい前の本ですが、そこに長期的競争優位について詳しく書かれていて、今でも最良の指南書だと思います。 (ケビン)大事なのは、モデルの性能をギリギリまで使うような領域で製品を作ることです。もし自分がやっていることが、次に私たちが出すモデルによって代替されてしまうかも…と心配しているなら、それはあまりいい立場ではないですね。でも、新しいモデルがリリースされるのが待ち遠しいと思えるようなもの—つまり、モデルがさらに賢くなるほど自分たちの製品もより良くなる—そういう形で作っているなら、とてもいいポジションだと思います。だから、モデルが進化すればするほど製品が良くなるような開発を心がけるといいですね --- Q17. チャットGPTやその製品における環境面の取り組みが気になるんです。そこをどう考えていらっしゃいますか? 3つ言えることがあります。まず1つ目、私たちはトークンあたりのコストをエネルギー面でもおよそ1000分の1にまで下げました。つまり、1回の問い合わせで使う電力は今は本当にわずかです。o3 miniのモデルなんか特に、ごく少ない電力で動きます。でもそのぶん、安くなると利用頻度が増えて、結局トータルでは増えるかもしれませんが。2つ目は、私たちが今後さらに力を入れようとしている「AIを科学に活用する」という領域で、気候変動やクリーンエネルギー、あるいは炭素回収や太陽放射管理のようなラディカルなアイデアでも、AIを使って解決策を見つけていきたいと思っています。私たち人類は今のところ、気候問題を単独では十分に解決しきれていないように見える。AIを使ってそこをなんとかできないか、と考えています。3つ目として、世界は商業的に実現可能な核融合にかなり近づいていると思います。もしそれが超安全かつ信頼性が高く、地球上で最も安いエネルギー源になれば、みんな急速にそちらへ切り替えていくでしょう。歴史を振り返っても、大きなコスト差があるエネルギー源が登場すると、世界は一気に変わります。 --- Q18. ハードウェア開発に関して。ソフトウェアのデバッグにはAIがかなり使えますが、回路を組んだり実物を作ったりといった部分でのデバッグはまだ難しいです。そこをどう考えてますか? 次のoシリーズのモデルは、そういう領域でかなり使えるようにデータを訓練していますので、期待してください。うまくいくといいですが。 (ケビン)特に「これがうまく動かないんだけど、どこが問題?」みたいなのを写真に撮って質問できるようになると面白いですよね。 --- Q19. OpenAIは倫理面をどう改善していくのか? 私の答えとしては、「AIは完璧ではない方がいい」という面もあると思います。AIと人間の間に感情のギャップが生まれることを考えると、AIが私たちをハッピーにしてくれるには何が必要か、AIに何を教え、人間として何を維持していくのか、そういうことを考え続ける必要があるのではと思います。それが、人類社会にとって持続可能かつ価値ある形で共存するための鍵ではないでしょうか。

修正 Q9: ケビン -> サム Q19: サム -> 別の方

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